静かに退職する若者たち / 金間大介

現実世界でも多く見ることになった1on1について書かれた本だ。国立大学の教授である筆者が日々学生を相手にして感じていることや考えたことを書籍化している。Twitterで目にして、気になるテーマでもあったので早速購入して読んでみた。全体の感想としては、職場の先輩、上司、後輩、新入社員、就職活動する学生、人事担当などあらゆる層に向けて平易な言葉で各層に寄り添いながら文章が綴られている。いずれかに偏ることなく、全員に対してフェアな目線で書かれていることがとても印象的だ。読み進めてみて、自分自身は若者とまでは言わないまでもやっと部下を持ったくらいの中堅になりたて社会人としては、若者目線も含め少し共感する部分もあるし、上司層として若手と対峙して感じることが言葉になっていて首を縦に振りながら読み進めた。総じて示唆に富む内容だった中で、いくつか気になった言葉や説明を挙げると以下のようなことだ。

・上司としてはどうしても部下である若手と距離を近付けようと人間関係の構築を急ぐが、そこにも注意すべき点があるというのだ。「単に人として仲良くなることと、何を言っても大丈夫、という安心感の下、本音ベースで話し合い、お互いの成長を促すと共に信頼関係を構築していくこととは全く異なる。若者にとっては、人間関係そのものがリスクそのものなのだ」なるほど、確かにと思わざるを得ない。

・そし1on1の実施において注意すべきことは以下のようなことだ。「1on1の目的を明確化すること、目的に沿って十分な準備をすること」なのだという。そして目的というのは例えば、「社員の主体性の向上、自律的キャリア形成の支援、評価の納得性、離職率の低下」、そういうことだ。更には「課題解決の場ではないことを意識し、フィードバックの徹底」が必要になる。

・若者からとったアンケートによれば、ワークライフバランスを求める割合が下がって、寧ろ将来が不安だからスキルを身につけたいという就活生が増えている。これはワークライフバランスなんていうものは今や当たり前で、わざわざ意識をしなくても手に入るものになっていることに起因する気がするが、いずれにせよ、スキルというものに若者の意識が移ってきているというのは間違い無いだろう。

・そして、「いい子症候群の若者にとって、会社はお金をもらってその分貢献するだけの存在ではもはやなくなっており、与えられた仕事はもちろんだが、その過程を通して会社や上司がいかに自分の個性に合ったスキルや能力を身につけさせてくれるかが大事になってきている。職場がゆるすぎて辞めたくなるのは、同世代と比較して自分が置いていかれることに対する恐怖から発せられる。その心のありようを矯正しようとしてはいけない」まさにその通りで、会社が何を与えてくれるか、という視点がどんどんシビアになってきていると言わざるを得ない。「昨今の知識やスキル、能力の獲得に対する「ファスト化」も起きている」ことも無視できない。10分で名著を紹介したり、教養や知識を簡単に得ようとする姿勢も鮮明だ。

・それらを踏まえて1on1をするうえで重要なことは、①フィードバックはなるべく早く、②フィードバックを返すポイントは具体的に、③褒め言葉は「私」を主語とした形に、④ごく簡単な質問で終わる、⑤軽めのフィードバックを頻度高めに、ということらしい。

・そして、理想の上司とは「仕事について丁寧に教えてくれて、若者の意見や要望に対して自ら動いてくれて、いかなる場合でも叱るなんてとんでもなく、仕事を振っておいて見守るだなんてあり得ない、ついでに、友達感覚で食事に誘うようなことはしない」以上。

期末が近づき、部下達との面談もしなければならない、日頃接する中でも学びを活かして行くことができそうだ。メンタリティの部分についてかなり腹落ちするし、理解が進んだものと思うが、ややスキル的なところで「じゃあどうすればいいのよ」という気持ちが残ったので、本書で推薦されていた「フィードバック入門」という新書を読み進めてみよう。